アダム・フランク著「時間と宇宙のすべて」読了。
読み応えありましたが、良い本に出会えました。
私にとって多くの新しい視点を与えてくれました。
本の内容自体は、歴史を追って文化的な人間の時間への認識、
そして、宇宙論にいたる物理学の進歩を絡めて記されています。
まず私にとっては神話の派生から、ハッとさせられました。
古事記の作者不詳は、小学生の頃から抱いていた疑問のひとつでした。
また世界の神話は、ギリシャ神話にしろ日本神話にしろ、
似通った象形やストーリーが多いことも、気になっていました。
それはなぜか?気づいてみれば単純ですが、
人類が文字を発明する前に、
時間の概念を得ていたからに他ならない、ということのようです。
原始、石器時代の人類は、自然と密接にかかわり、
天空を見上げ、太陽や月、星の動きを感じて時間の概念を得ます。
そして、実際に天体の変化(月の塑望等)を刻んだ骨があるそうです。
時間の概念が生まれても、自然にまつわる話が生まれても、
文字がなかったために口伝となるしかなかったようです。
また、きっと文字がなかったために、
ストーンヘンジに代表されるような天体の動きを記す遺物を、
多大な時間と労力をかけてでも残そうと思ったのでしょうね。
遺物を残そう、次代へ残そう、とする時点で、
太古の人々が、死という時間を意識していることがわかります。
その後、文字が発明されて、壁画、石版等を辿って書物が生まれますが、
神話や天文現象の遺物などは、
文字が発明される前に紡がれた先人達の叡智と言えるわけです。
当然に、特定の作者がいるわけがありませんし、
その成り立ちの全てが記録されているわけではありません。
さらにいえば、
携わった個々人に名前があったどうかも定かではありません。
神話の類似性に関しては、狩猟生活から農耕に至る人類史をもつならば、
太陽や大地、海や川、その他の災厄となる自然現象も、
多少の地域差があれど、同じように人々の生活に影響をもたらします。
それぞれの自然現象が、恵みや災厄の象徴となるがゆえに、
派生する話の体系、すなわち、世界各地の神話が、
似通ってくるのも当然といえば当然なわけですね。
大地と海と太陽が、恵みと厳しさを与えてくれる神なる存在となり、
それぞれに相克を演じているように見えたのでしょう。
全くもってその流れは納得できるのですが、
時に歴史が、その世の覇者の都合により歪められるように、
現在ある数多の宗教上の教義や創世記は、
人や言葉を介すゆえに、違いが生じるようにも感じます。
そして歴史を追うようにページを読み進めると、
プラトン、プトレマイオス、
コペルニクス、ガリレオ、ニュートンの話等がありました。
この辺りは、読んでいても違和感なかったのですが、
私はアインシュタインで、少しつまづきました。
相対理論ですね、若い頃にも挑戦をしたことがありますが、
やっぱり今回も、私の頭の中で多少の混乱を起こしました。
以前の私は、光の速度が一定であることを、
前提や仮説のように、鵜呑みにするほかにありませんでした。
しかし、この本を読んだ此度は、
「光」→「電磁波」→「電界、磁界」であるから、
「物質の移動」→「空間の移動」→「空間の歪み」と解釈した場合、
「電界、磁界」も「空間」と切り離せない、
というよりも、「光」そのものが「空間」であるがために、
光の速度が常に一定になるのだと捉えることで、
どうにか相対理論を理解した気になりました。
基準座標に対して移動する物質は、
空間を伸び縮みさせ、光もまた当然に伸び縮みさせる。
そうすれば、当然に光速は一定になりますものね。
正しいかどうかはわかりませんが、私はそんな気がしたのです。
そして、光速を超えることができた場合は、
周囲の空間も歪み収斂して、超重力となり、
ブラックホールにつながる気もします。
ビッグバン理論やインフレーション理論にも当然に触れますが、
原初の特異点については、結局、未解明だということしかわからず、
特異点を回避するために、
サイクリック理論、永久インフレーション理論などが、
理論物理学として台頭してきたわけですね。
CMB(宇宙マイクロ波背景放射)の発見以降の宇宙論は、
理論物理学、すなわち、哲学にもある思考実験に近く、
まだまだ具体的なデータの観測がされていないようです。
多宇宙が想定される余剰次元や、ひも理論(一次元から)の発想は、
特異点(ゼロ)を回避して宇宙を解釈することには、
とても理に叶う訳ですが、根本の解決に及ばないのだと思います。
また、私のひとつの夢想でしかないのですが、
時空の描像をアインシュタインは球体であると提唱もしましたが、
併せて、磁極モノポール問題、フラクタルに触れて、
地磁気とCMBは、似通った描像をしているのではないか?と思いました。
球体って、やっぱりスゴイじゃないですか?
体積に対して、もっとも表面積が少なくて均質的。
そして果てがない、端っこがない。
地磁気の磁力線は、南極から赤道に向けて、
空間の広がりとともに拡散します。
これが、宇宙の膨張とフラクタルを為すのでは・・・と、
考えると面白い気がしたのです。
理論物理学は、観測データが追いついていない仮説の論理ですが、
それは太古の人類が、天を見て思いを馳せた哲学の姿と重なります。
今では、学問として対極にあるように分類されますが、
それぞれに「ゆらぎ」や「空(くう)」などの考え方にたどり着き、
近似性を見てとることができます。
どちらの分野から触れてみても、
偶然ではない、真理はきっとどこかにあると思わせる浪漫を、
改めて、この本を通じて感じるのでございました。